1. はじめに
現代のインターネット社会では、私たちの日常生活に欠かせない多くのサービスでパスワード認証が利用されています。しかし、パスワードを悪用したサイバー攻撃や、フィッシング詐欺といったリスクが年々深刻化しています。
パスワードを記憶する負担や、複雑化するセキュリティ対策にユーザーが疲弊する一方で、攻撃者は巧妙な手法を駆使して個人情報や金銭を狙うケースが増えています。これに対し、アメリカや日本を含むIT業界では、パスワードに代わる新しい認証技術「パスキー」を普及させる動きが加速しています。
パスキーは、顔認証や指紋認証といった生体情報を活用し、パスワードそのものを不要にすることで、より高いセキュリティと利便性を両立させる革新的な技術です。本記事では、FIDOアライアンスによる普及活動やパスキーの仕組み、その利点について詳しく解説します。
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2. FIDOアライアンスとパスキーとは
FIDOアライアンスとは
FIDO(Fast Identity Online)アライアンスは、パスワードに依存しない認証技術を推進するために設立された国際的な業界団体です。2012年に発足し、Apple、Google、MicrosoftといったIT大手を中心に、世界中の企業が加盟しています。
FIDOの目的は、従来の「パスワード認証」から脱却し、より安全かつ便利な認証方法を実現することです。従来の認証システムは、IDとパスワードを使ってサービス提供者側のサーバーにデータを送信し照合しますが、これにはいくつかの問題がありました。
パスワード漏洩のリスク
フィッシング詐欺や不正アクセスによって、ユーザー情報が盗まれる可能性があります。
パスワードの管理負担
ユーザーが複数のパスワードを覚えたり、定期的に変更したりするのは大きな負担です。
こうした課題を解決するため、FIDOアライアンスが推進する技術の一つが「パスキー」です。
パスキーとは
「パスキー」は、従来のパスワードに代わる認証手段であり、顔認証や指紋認証などの生体認証を用いる仕組みです。利用者の端末に保存された認証情報(秘密鍵)を使い、認証を行います。
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1. パスワードじゃなくて鍵を使う
普段、サーバーにログインするときにはパスワードを使いますが、パスキーではパスワードの代わりに「鍵」を使います。この鍵は、物理的な鍵ではなく、デジタルな秘密のコードで、スマホやパソコンに保存されています。パスワードは誰かに知られてしまうと簡単に悪用される危険がありますが、パスキーはデバイス内に保存されているため、簡単には盗まれません。また、複雑なパスワードを覚える必要もないので、ユーザーにとって非常に便利です。
パスキーの具体的な流れとして、まず登録時にあなたのデバイスが鍵を作り、その鍵をサーバーに送ります。次に、ログイン時にはサーバーがチャレンジを送ってきます。デバイスは鍵を使ってそのチャレンジに答えを返し、ウェブサイトはその答えを確認して、あなたを認証します。
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2. ウェブサイトごとに鍵を作る
パスキーは、各ウェブサイトごとに異なる鍵を作ります。例えば、「本物.com」というサイトと「偽物.com」というサイトがある場合、それぞれ専用の鍵が使われます。パスキーは特定のウェブサイトだけで使えるように設計されているので、たとえ「偽物.com」が「本物.com」を装っても、本物.comの鍵がないためにログインができません。これにより、フィッシング詐欺を防ぐことができます。
また、パスキーは通信が暗号化されているため、中間者攻撃にも強いです。攻撃者が途中でデータを盗んだとしても、正しい鍵を持っていなければ認証できない仕組みになっているからです。
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3. 鍵を開ける仕組みが安全
ログインするとき、ウェブサイトは「チャレンジ」と呼ばれる特別な質問を送ります。この質問は毎回異なります。あなたのデバイスは、その質問に対して鍵を使って答えを返します。ウェブサイトはその答えを見て、「この人は本物だ」と確認します。これにより、誰かがこのやり取りを盗み見ても、鍵自体はわからないので、ログインすることはできません。この仕組みは非常に安全で、毎回異なるやり取りが行われるため、仮に盗まれても安全性が保たれます。
あなたには「魔法の鍵(秘密鍵)」があります。この鍵は特別で、あなたしか使えません。ある建物(サーバー)に入るとき、ドアは「今日の合言葉(チャレンジ)」を聞いてきます。ドアが言う合言葉は毎回違います。あなたはその合言葉に対して、魔法の鍵を使って特別な答え(署名)を作り出します。この答えは魔法の鍵なしでは作れません。ドアは「チェック装置(公開鍵)」を持っていて、あなたの答えが正しい魔法の鍵で作られたものかどうかだけを確認します。ドアは、鍵そのものを持っていなくても、答えが本物かどうかを判別できます。たとえ泥棒が合言葉(チャレンジ)やあなたの答え(署名)を見たとしても、魔法の鍵なしでは新しい答えを作ることはできません。ですから、泥棒は次の合言葉に対して正しい答えを作れないので、ドアを通れません。
パスキーは、パスワードよりも多くの面で安全です。フィッシング詐欺に強く、パスワードの使い回しを防ぎ、覚える必要がないため便利です。毎回違うやり取りが行われるため、盗まれても安全です。このように、パスキーは私たちの日常のセキュリティを大きく向上させる素晴らしい技術です。
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3. パスキーの利点
パスキーは、従来のパスワード認証に代わる新しい認証技術であり、さまざまな面で優れた利点を持っています。ここでは、セキュリティの向上、ユーザー体験の改善、コスト削減という3つの主要な利点について解説します。
1. セキュリティ向上
パスキーは、フィッシング詐欺や不正ログインのリスクを大幅に軽減します。
認証情報がサーバーに保存されない
パスキーでは認証情報(秘密鍵)は端末内に保存され、サーバー側には送信されません。そのため、万が一サーバーが攻撃されても情報が漏洩するリスクはありません。
フィッシング詐欺対策
偽のログイン画面に騙されてパスワードを入力するフィッシング詐欺も、パスワードが存在しないため効果がなくなります。
事例: メルカリの成果
メルカリでは、パスキーの導入によって約700万アカウントで不正ログインがゼロになりました。これにより、フィッシング詐欺被害が大幅に削減され、アカウントの安全性が飛躍的に向上しています。
2. ユーザー体験の向上
パスキーは、利便性においても従来のパスワードを大きく超えています。
ログイン時間の短縮
生体認証(指紋や顔認証)を利用するため、パスワード入力や二段階認証の手間がなく、スムーズにログインできます。
事例: ソニーグループのPSN
ソニーのゲーム配信サービス「プレイステーションネットワーク(PSN)」では、パスキー導入によりログイン時間が従来より24%短縮されました。
パスワード管理が不要
パスキーは生体認証を利用するため、「パスワードを忘れる」問題や「複雑なパスワードの管理」から解放されます。
事例: LINEヤフーの成果
Yahoo! JAPAN IDの利用者では、パスワードを忘れることによる問い合わせが25%減少し、ユーザー体験が向上しています。
3. コスト削減
パスキーは、企業側の運用コストやセキュリティ対策費用の削減にも貢献します。
サポートコストの削減
「パスワードを忘れた」「ログインできない」といったサポートへの問い合わせが減少します。
事例: ソニーグループの削減効果
ソニーでは、パスワード再発行にかかるコストが年間数十億円規模に達していましたが、パスキー導入によって大幅なコスト削減に成功しました。
SMS認証の費用削減
従来の二段階認証で使用されるSMS認証は、1通ごとに数円のコストがかかります。パスキーを導入すれば、こうした費用が不要になります。
4. FIDOとパスキーの未来展望
パスワードレス社会への第一歩
従来のパスワード管理は、ユーザーにとって大きな負担であり、企業にとってもリスクが伴うものでした。FIDOアライアンスが推進する「パスキー」は、こうした問題を根本から解決し、パスワードに依存しない新しい認証の形を示しています。
FIDO技術の進化
FIDOアライアンスでは、生体認証を用いた安全な認証技術を標準化し、世界中のサービス提供者が利用できるよう推進しています。
セキュリティの向上: 認証情報がサーバーに保存されない仕組み。
利便性: 顔認証や指紋認証を活用し、シンプルで迅速なログイン体験を提供。
新しいセキュリティ基盤としてのパスキー
FIDO技術の普及により、今後のセキュリティ対策は「ゼロトラスト」の思想とも密接に関連していきます。ゼロトラストでは、すべてのアクセスを検証することが求められますが、パスキーを活用することで、不正アクセスのリスクを大幅に軽減できます。
未来のIT
環境クラウドサービスへの安全なアクセス
リモートワーク環境のセキュリティ強化
フィッシング詐欺の撲滅
パスワードレス社会の実現に向けて
政府や企業がパスキーの導入を進めることで、より安全で効率的なデジタル社会が実現します。しかし、その普及には以下が欠かせません。
1.企業の取り組み
初期導入のコストやシステム更新に対応することで、ユーザー体験の向上とセキュリティ強化が可能です。
2.ユーザーへの啓発
パスキーの利便性や安全性を正しく理解してもらい、広く活用してもらうことが重要です。
FIDOアライアンスと技術各社の取り組みによって、パスワードレス社会の未来はすぐそこまで来ています。
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5. Splashtop Secure Workspaceの活用提案
これまで紹介してきたFIDOアライアンスが推進する「パスキー」は、従来のパスワード認証の限界を超え、フィッシング詐欺や不正アクセスのリスクを大幅に削減する革新的な技術です。顔認証や指紋認証といった生体認証により、利便性とセキュリティを両立し、パスワードレス社会への道を切り開いています。
Splashtop Secure Workspaceでさらなる安全性と利便性を
パスキーが提供するセキュリティの進化に加え、ビジネスシーンでは、リモートアクセスやサードパーティ(外部委託先)管理の強化も欠かせません。ここで重要となるのがSplashtop Secure Workspace(SSW)です。
Splashtop Secure Workspaceの主な特徴
ゼロトラストの実現
「必要なユーザーに、必要な時だけアクセスを許可」する仕組みにより、不正アクセスを防止します。
端末や接続元を限定し、セキュリティリスクを最小化します。
パスキーとSSOの組み合わせ
Splashtop Secure Workspaceは、シングル・サインオン(SSO)に対応しており、FIDO技術と連携することで安全なアクセス環境を実現します。
ユーザーは複数のシステムに対して一度の認証でアクセス可能。
管理者は、アクセス履歴やログを一元管理でき、セキュリティ管理の負担を軽減します。
導入の手軽さ
Splashtop Secure Workspaceは、初期費用を抑えながら短期間で導入が可能です。
クラウドベースのため、複雑なインフラ構築は不要です。
安全なデジタル社会へ
パスワードレス技術「パスキー」の普及により、私たちのデジタル環境はこれまで以上に安全で便利になります。そして、Splashtop Secure Workspaceの導入を組み合わせることで、企業や組織は高度なセキュリティを維持しながら、効率的な運用を実現できます。
セキュリティ強化: フィッシング詐欺や不正アクセスのリスクを低減
業務効率化: シングル・サインオンと統合管理による管理負担の軽減
導入のしやすさ: 初期費用を抑え、迅速に運用開始
パスキー技術とSplashtop Secure Workspaceを組み合わせることで、より強固なセキュリティ環境を構築し、パスワードレス社会の実現を加速させましょう。
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